2013年8月26日月曜日

チャールズ・アイゼンシュタインによる贈与経済についての講演会

 八月二十四日、チャールズ・アイゼンシュタインという思想家による近くの美術館を会場としてひらかれた講演会に行って来た。

 贈与経済という思想は先日も紹介したバーニングマンの原則のひとつであり、また昨今ではSF作家でシリコンヴァレーとも縁のふかい評論家のコリイ・ドクトロウなんかが盛んに提唱している。ドクトロウの場合は無料経済という言葉を使っているが。つまり六十年代に端を発するカリフォルニア的思想の一環なわけだ。
 
 このチャールズ・アイゼンシュタインという人は若いころに台湾へ渡り、翻訳家として活動していたこともあるということで、東洋思想からも影響を受け、ヨーガに関する著書もあるようである。いかにもニューエイジの流れに位置づけられる思想家のようだ。二〇一一年に「聖なる経済」という贈与経済に関する本を出している。探してみれば、日本語でも有志がオンラインで翻訳を公開していた

 今回の講演会はおもに二部にわかれ、前半はアイゼンシュタインが登壇して贈与経済の概要などを語り、後半ではサンタクルーズの地元の非営利団体の活動家らが登場してそれぞれの活動などを説明するという内容。それら参加していた非営利団体は、まず地域を考えよう時間銀行キャンプヒル共同体カリフォルニアなど。 キャンプヒルとは障害者と共に生きるための共同体を立ち上げる活動体だそうだ。その代表者の人はルドルフ・シュタイナーから影響を受けているらしく、直接人智学的な用語は使わないまでも、言葉の端々にその様子がうかがえるのが面白かった。会場は満杯に近く、聴衆は百人以上つどっていたであろうか。

 ただ、やはり贈与経済のあり方について楽天的過ぎる嫌いがあるのが否めない。アイゼンシュタインは講演で「贈与経済は人々をつなげ、貨幣経済は人々を遠く切り離す」と語っていたが、それこそが貨幣経済の魅力であり強さではないのか。エンゲルスが貨幣を農村共同体を溶かす酸になぞらえていたことを思い出す。

 後半では聴衆からいくつもの質問が飛び交い、そのひとつに贈与経済下における芸術の収益という実に現在的な問題があった。つまり、貨幣を否定したら芸術に収益が出ず、その発展が阻まれるのではないか。「ミケランジェロはどうやってシスティナ礼拝堂に絵を描くか」がその時に質問者がしめした例えである。アイゼンシュタインはそれに対し、自分は貨幣経済を全面的に否定するものはではないと語りつつ、今後の芸術への集団財源庇護( Cloud source patronage)の可能性に言及した。クラウドファンディングとも呼ばれる形を想定しているのか。月並みではあるが、妥当なところだろう。

 ところで筆者もいわゆる貨幣経済に代わる、非貨幣経済がますます台頭してくるとは思うが、そうなるのも資本主義の妙なる適応と弁証法的な変わり身の結果だろう。